(ドロの沼の真ん中に、頭だけ出した男が2人)
新神「あのぅ、先輩・・・」
沼神「ん、どうした新入り。便所なら無いから、大小すべてここで全て吐き出せ」
新神「嫌です。先輩はここでしてるという事実も嫌です。
そうじゃなく、わざわざこんな底なし沼にもわれわれ神族の人員を割く意味はあるのかと思いまして」
沼神「何を言う。物語や伝説に残っているのは湖や海の神が一般的だが、
あらゆる場所に神は存在しなくちゃいけないんだ」
新神「それはわかりますけど・・・。僕どっちかっていうと木とか花とか、
植物系の神に配属希望なんですが」
沼神「基本は底なし沼も同じだ。あらゆる生き物を見守り、時には手助けし、つかまえ、引きずり込み、帰さない。
闇の中をさまよいながらもがき苦しみ・・・フハハハハ」
新神「恐いですよ! 底なし沼の嫌な部分がアピールされてます」
沼神「人の意識は薄れゆき、どこかを漂っているような感覚・・・ふっと目を覚ますと・・・そこは熱海」
新神「あり得ませんよ! 人死にかけてたのに!」
沼神「熱海の温泉の中には死んだはずのお爺ちゃんとお婆ちゃんが手招きして・・・」
新神「臨死体験じゃないですか!熱海が舞台って初耳ですよ!」
沼神「熱海の神の全面協力を得て実現したんだぞ。そういう思いやりは全ての神に共通なんだ。」
新神「熱海そのものにも神がいたとは・・・。そんなとこに力注がないで、溺れて死にそうなら
助けてやればいいじゃないですか」
沼神「そういう直接的なことはしちゃいけないんだよ。
まぁ熱海の神が熱海市長に許可取りに行ったのはギリギリだったけどな」
新神「わざわざ許可取ったんですか!」
沼神「時には積極的にいかないとダメなんだよ。
ほら、昔話にさ、泉に落ちた斧を泉の女神が拾ってあげる話があるだろ?」
新神「まぁおおざっぱに言うとそんな感じの話はありましたけど」
沼神「実はさぁ・・・その女神って俺のお婆ちゃんなんだよ」
新神「・・・いや何ですかそれ自慢!? 全然関係ないですよね?」
沼神「いや、つまりあのくらい積極的にボランティアしちゃってもいいんだよ。
お婆ちゃん軽く斧アンケートとかも取ってたらしいし」
新神「斧アンケートって。直系の血筋なのに物語のとらえ方が適当ですね、先輩。
でも底なし沼じゃあ人の役に立とうにも人が近づきませんよ・・・」
沼神「いや、でもチャンスが無いとは言えないじゃないか。
お婆ちゃんみたいな事ができたら俺たちも物語に残るかもしれないぞ?」
新神「そうですかねぇ・・・。落とし物拾うくらいで物語になるかなぁ、今時」
沼神「いろいろ工夫すれば大丈夫だよ。前に誰かが落としてったタンスで練習してみるか」
新神「それ粗大ゴミでしょ! タンスでシミュレーションは無茶が・・・」
沼神「まぁ使えればいいじゃないか。 えーっとセリフは『この沼を汚すのはお前かー!』
でいいかな?」
新神「ダメですよ!それはゴミ捨てられた時に言ってくださいよ。
沼の中から現れて、『このタンスを落としたのはお前か』でどうですか?」
沼神「よし。じゃあいくぞ。・・・・・・ぶはぁっ!はぁぁっ!このっ、ぶふぁっ、タンスを落としたのはっ、
お前かぁぁぁゲッホゴホっっ!」
新神「恐いですよ!全身ドロまみれでタンス持ち上げて叫んだら!
せめて顔のドロくらいは拭いた方が良いんじゃないですか?」
沼神「そうだな。じゃあ・・・・・・ぶはぁっ!ふぅ、(ゴシゴシ)
あっ、ここで落とした人と恋が芽生えちゃったりするかな?」
新神「芽生えませんよ素顔見せたからって!出会いに飢えてることはわかりましたから続けて下さい」
沼神「えーと、あっ、『お前が落としたタンスが金だったら正直者じゃないか!』」
新神「うわ中途半端に斧ストーリー思い出した! 先輩意味わかんないですから普通にお願いします!」
沼神「でもせっかく思い出したんだからやってみたいな。金のタンスと桐のタンス持ってない?」
新神「桐のタンスじゃただの良い品じゃないですか!どっちにしろ無いですけど」
沼神「しょうがないな・・・じゃあ新企画『タンスドロドロ!さぁドッチ!』でいこう」
新神「タイトル付けてもどうしょうもないですけど、新しいことはした方がいいですね」
沼神「これは沼に落ちてドロまみれのタンスとドロまみれのお前を選ばせる、という企画だ」
新神「なんで僕を選択肢に入れてるんですか!どっち選べば正解なのかもわかりませんし」
沼神「こうでもしないとお前出演できないないぞ?スペシャルサンクス スペシャルサンクス」
新神「適当なこと言わないで下さいよ!
そんなんでちゃんと物語的っぽくなるんですか?」
沼神「タンスを選べばコンティニュー、お前を選べばタイトル画面に戻る」
新神「ゲームオーバー後じゃないですか!
こう、落とし主の性格を試したりはできないんですか!?」
沼神「タンスならA型、お前ならO型だな」
新神「そこから先は自分で調べろと!? そういう性格じゃなくて正直かどうか、とかですよ」
沼神「『タンス落としました』なんて言うヤツは嘘つきだろ」
新神「元も子も無いですよ! 先輩そんなんじゃお婆ちゃんの名前に傷付けちゃいますよ!?」
沼神「ああ、こないだ家系図から名前削られたから大丈夫だよ」
新神「人生がドロ沼ですね・・・」
|