SUGER BOYS
嗚呼、青春の日々

須加「バカ野郎!(バキッ)」

佐藤「痛っ!素で痛っ! な、何なんだよ、いきなり!」

須加「何って、愛のムチという名の右ストレートですけども。」

佐藤「んなこた訊いてねぇよ! いきなり愛のムチぶっ放しやがった理由を訊いてんだよ!」

須加「いやー、さっきふと、ワルやってた学生時代のことを思い出しましてね。
    そういや『愛のムチだ!』なんて言って殴られたなぁ・・・とか思ったら、自分もやってみたくなって。愛のムチ。」

佐藤「あーなるほど、とんだとばっちりだ俺。
    まぁ、お前がワルだっていう余りの嘘っぷりに免じて告訴は取り下げてやるけどさ。」

須加「何言ってんですか! 近所でも有名な、名札付きのワルでしたよ。」

佐藤「札違いだよ! ワルのくせに校則遵守してんじゃねぇよ!」

須加「かなり荒れてましたからね。
    スーパーで『3割引』のシールを他の商品に貼り替えたり、ロール式のビニール袋を大量に持って帰ったり。」

佐藤「主婦の悪行じゃねぇか! お前んちの家庭環境の悪さが窺えるよ!」

須加「近所でもね、色々と噂になりましたよ。
    『ヒソヒソ・・・須加さんとこの息子さん、痔らしいわよ』 なんて。」

佐藤「いや、それワル関係ねぇから。 確かに世間体が気になる内容だけど。」

須加「噂が学校にも広まったらしくて、クラスでも皆、僕のこと見ず見るフリで。」

佐藤「見て見ぬフリで頼むよ! 何でそいつら知ったかぶりする必要があるんだよ!」

須加「『はいぃ?何見てんですかコラ?(くいっ)』 」

佐藤「そのキャラじゃワルって言うより委員長だよ! だいたい皆見てないんだから自意識過剰だろそれ!」

須加「まぁ、学校では元から休み時間とかに白い粉を吸ったりしてたんですけどね。」

佐藤「うお、何か一気にワルっぽくなったな。 罪のグレードが。」

須加「『(スゥ〜)・・・へっへっへ、やっぱ消したての白チョークの粉はたまんねぇなぁ・・・。』 」

佐藤「違う意味で体に悪いよ! ていうか、黒板消し係の特権みたいに言うなよ!
    ところで、まぁ百歩譲ってお前がワルだったってのは分かったけどよ、
    愛のムチ云々は一体どこ行ったんだ? 今までの話じゃ全く見えてこないんだけど。」

須加「ふふ、お前さん、愛のムチについて聞きたいのかい?
    ・・・別に構わねぇが、シラフじゃ語れねぇな。 酒の一杯でも奢って貰うぜ?」

佐藤「やめろ、場末のバー気取り。 酒なら後で静脈注射してやるからさっさと話せ。」

須加「えー、そうですね、何故僕がワルの道に進むことになったのか、から話しましょうか。
    僕ね、こう見えても高校のときは、こう見えても野球部に、こう見えても所属してまして。」

佐藤「いや、どう見えてんのか知らねぇけどさ。」

須加「チームの主力として、毎日毎日、白球を追いかけては磨き、追いかけては磨き・・・。」

佐藤「それ世間じゃ補欠って言うんだよ。 今度『主力』って辞書で調べてみろよ。」

須加「そんな夏のある日のこと、悲劇が起こりました。
    激しい練習のせいで、肩と肘とケータイとMDウォークマンを壊してしまったんです・・・。」

佐藤「後半のはポケット入れっぱなしだったせいだろ! ていうか、それで体壊すってどんだけアクロバティックな球磨きだよ!」

須加「絶望しましたよ・・・出会い系サイトでメル友のアイちゃんと知り合えたばかりだというのに・・・!」

佐藤「選手生命の方を気に掛けろよ! この現代っ子め!」

須加「どうやって家に帰ればいいんだ・・・GPS機能が無くなったら・・・!」

佐藤「ホンマもんのバカだよコイツ!」

須加「それからは部活にも顔を出さず、ワルい仲間とつるむようになり、黒板消しの仕事も覚えました。」

佐藤「最後のはむしろ改善してるように聞こえるよ! まぁともかく、やっとワルの道に入ったんだな。」

須加「ケータイも買い替えてやっと家に帰れるようになった数ヶ月後、事件は起こります!
    あれは、部室に隠していた、痔によく効くボラギノールA座薬を取りに行ったときのこと。」

佐藤「だから隠すから噂にされるんだって。 今度は家出騒ぎが起こってるとこだろうけど。」

須加「偶然にも、野球部の監督である会津先生と出くわしてしまった!
    そんな僕を見るなり、『バカ野郎!』 と愛のムチという名の右ストレートを仕掛けてくる監督!
    ヒラリとかわす僕!」

佐藤「避けるなよ! 感動もクソもねぇよ!」

須加「しかし避けた拍子にバランスを崩し、尻もちをついてしまう!
    なんとそこには置いてあったボラギノールが! ズブリ!」

佐藤「どんな偶然だよ! じゃあ何か、下半身丸出しで攻防繰り広げてたのかお前!」

須加「偶然にも痔が完治した僕! 監督が金属バットを振り下ろしてくる! とっさに尻の谷間で白刃取りに!」

佐藤「落ち着けよ聖職者! お前もボラギノールの即効性とケツの強度を過大評価しすぎだよ!」

須加「《バカ野郎! ちょっと怪我したぐらいで簡単に夢をあきらめやがって!
     お前には支えてくれる仲間がいる! 自分は傷ついても、周りの人間まで傷つけようとするな!》
    『あ、会津カントク・・・っ!』 」

佐藤「金属バット振り回す奴が言えるセリフか!」

須加「《いいか! 夢は必ず叶うんだ! お前が前を向き続けている限り!》
    『・・・今のセリフ、確か、誰かに相談したときに・・・も、もしかしてアイちゃん?』
    《・・・スガっち・・・?》 」

佐藤「あぁなるほど会津のアイちゃんね、ってバカーッ! 有り得ねぇにも程があるわ!」

須加「『そうか、監督がアイちゃんだったんだぁ! すごい偶然だね!』
    《うん! アタシも、須加くんがスガっちだったなんてぇ、ぜぇんぜん知らなかった〜☆》 」

佐藤「露骨に口調変えやがった、このネカマ監督!
    知らなかったで済ませるなよ! お前らそれでいいのかよ!」

須加「以上、これがホントの 『アイの無知』 でしたー。」

佐藤「もういい加減にしろ!」